【第六十一振武隊】長谷川三郎

長谷川三郎

昭和十八年東京陸軍航空学校卒、熊谷陸軍飛行学校を十九年卒(少飛第十四期)、二十年四月二十八日、第六十一振武隊として出撃散華


 (遺筆その一)遺 書

母上様 三ちゃんは今笑って轟沈めざして出発致します 種々心配ばかりおかけ申して何と言って良いか分りません お母様 一人の自分にとっては幼い時を思ひ出すにつけ涙ばかり出て二十年何等(なんら)御安心の何一つ出来なかったこと 必ずや人に負けず頑張りますからお許し下さい

兄上様 姉上様 いろいろ有難う御座居ました

鉄ちゃん 忍ちゃん 一ちゃん しっかり頑張って下さい 急降下 南海に敵艦と共に必中桜花と散るは男子の喜 之(これ)に過ぐるはなくこれまで三郎育てられ教へられし諸先生 教官殿の賜(たまもの)の外(ほか)はなく出発前熱く御礼申上げます

母上様 御身体に注意して下さい

  四月吉日                     三郎

 母上様


 (遺筆その二)

今日大命を受け出発します 大変喜こんで居ります お母さん お先に行きますがお許し下さい 元気一杯頑張りますから御安心下さい 乱筆ながら自分の写真と共に自分の所感をお母さんにおしらせ致します 国家真に重大 将(まさ)にのるかそるかの今 航空に自分の居たことを感謝して居り 之(これ)お母さんの賜と喜こんでゐます 赤とんぼから九七戦 こんどは大東亜決戦機の新鋭にのり 特別攻撃隊として体当りをします 必ず轟沈します 近所の方々や学校の先生 私知の方々 岐阜の叔父様に充分よろしくお願します

咲く桜と共にぱっと散るは男子の喜 靖国の社へは日本が勝ってから参ります それまでは七生報国 魂は太平洋に留(とどま)りて米兵の舟どもを必沈します

三郎は靖国に必ず居りますからお身体を大切にして下さい 種々とお世話様になり孝行らしきこともせず迷惑ばかりかけて 又一年生の時や学校の時のことを思ひますと面白くなって来ますが お母さんに御苦労ばかりかけたことが思ひ出されて仕方ありません 昨日此処(ここ)へ来て明日は飛行機で九州まで行きます 必ずやりますから御安心下さい

   散るさくら散らぬさくらも散るさくら


 (遺筆その三)

 母上様 兄上様 両姉上様 いろいろとお世話になり ありが度(と)うございました

愈々(いよいよ)明日出撃でありますからこれが最后(後)の自分よりの便りだと思ひます

東航以来 熊谷、加古川、相模と操縦に一路進み新鋭四式戦を採る腕となりました

大東亜戦争愈々敵は益々我(わが)近海に迫り幾多大海戦はありましたけれども この沖縄の決戦こそ皇国の興廃にかかる神州肇(はじま)って以来の一大国難であります この晴の戦場に愛機と共に敵空母を轟沈するは二十歳の男子の喜び之(これ)に過ぐるはなく 皆様のお喜もいかばかりならんと察して居ます 唯(ただ)任務完遂 大君の御為(おんため)に闘志満々頑張ります

三月二十六日は畏(かしこ)くも大命を拝し 三月二十九日飛行機で熊本に着し 訓練に励みました 土地の人々からいろいろ厚いもてなしにあづかり感謝致して居ります 四月十二日都城に参り第一戦の出撃を待ちましたが 愈々明日の日と定りました 万感迫って皆様に何と言って今迄の御礼を申して良いか分りません 必ず任務必達致しますから御安心下さい

母上様 くれぐれも御身体に御注意して下さい

姉上様 兄上様 いろいろと御世話ばかりになり何一つ御期待に沿ふことも出来ずお許し下さい

弟 頑張って下さい

一ちゃん しっかり勉強して下さい 兄らしきことを何一つ出来ず さぞかし怨んで居ることと思ふが 唯残すは純真で忠孝の道に邁進せよとのみ

母上様 幼い時を思ひ出すと今でも眼前にちらちらとして見へます

きりりっと飛行服に身を固め 次々と空の決戦場に爆音高鳴る明日の日ぞ面白し ボーイングこれが悠々と我物顔に神州の空を侵す時 じっとがまんして涙を止めて舞ひ上らざりしも 皆明日のためなり

必ずや 必中必沈莞爾として征きます 近所の皆様 諸先生によろしくお願ひします

                                       敬具

   四月二十八日前夜
                                        三郎
 母上様


 (遺筆その四) 辞 世

   生もなし死もなし己(おの)が魂は
    守り守らんすめらみくにを


   千代ろずに栄える国のいしづへは
    春をも知らぬ若桜なり

               長谷川三郎



【出典】1977(昭和52)年 原書房 寺井俊一編 「航空基地都城疾風特攻振武隊」


  • 最終更新:2016-03-17 08:07:47

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