【第六十一振武隊】沖山富士雄

沖山富士雄

東京陸軍少年飛行兵学校卒、熊谷陸軍飛行学校卒(少飛十五期)、昭和二十年五月十一日、第六十一振武隊として出撃散華


 (遺筆その一)

拝啓その後は如何ですか皆元気でゐる事でせう。私も元気でおります故安心下さい。愈々(いよいよ)世の中も最期です。二十年の間色々有が度(と)う御ざゐました。子として何も出来ず申訳けありません。 之(これ)のみ心のこりで御ざゐます。然(しか)し今度の任務こそは必ずや親孝行の一端と存じます。決して驚かないで下さい。特攻隊員として出発するも名誉は実に大であります。日本国民として廿(二十)年実に生き甲斐がありました。体当りして遺骨これなくとも日立の方から遺毛を残しあります故部隊の方から送附して下さる事と思います。今送りますのは遺品と言ひますか必要でないものばかりであります。受取り下さい。最期出発するときは最後の品を送ります。親兄弟よりお先に逝きます事を御許し下さい。

では家の事はくれぐれもおたのみ致します。私も安心して体当りします。お祖母さまに会へないのが残念。

では最後に村の皆さまにくれぐれも頼みます。私の墓場は家の者全部の所にして下さい。御健勝と御奮励を祈ります。
此(こ)の便りが着くころは世にはゐないものと想って下さい。


 (遺筆その二)

 父上様

その後は相変らず御元気でゐる事と思ひます。私も元気であります故安心下さい。私も笑って征く覚悟であります。若(も)し知ったら喜んで迎へて下さい。此の間お便りいたしましたので何も書く事もありません。十日間点々として本日此の地に参りました。

では又 皆さまによろしくくれぐれも御伝言下さい。
                             富士夫 (*1)

  父上
     様
  母上


 (遺筆その三) 昭和二十年四月十二日発

前略御免下され度(たく)
大命の存する所欣然として任務に服し、散華します。若輩の身を以て大義の為にす 誇りこの上なく。
写真は旅館の方に依頼し送って戴きますから元気な姿を見て、よくやってくれたとほめて下さい。
両親様の御健康を切に祈ります。     さやうなら


 (遺筆その四)

父上様

その後は相変らず御元気でゐる事でせう。御無沙汰ばかりしておりますが元気でやっております故安心下さい。

大命を拝して特攻隊員として明日出発します。元気で莞爾(かんじ) (*2)として行きます。大勢に見送られ立派に空母に体当りした姿を想像下さい。帝国軍人として最大名誉と喜んでおります。明日行けば飛行機一機を戴けます。全く日本男子として生を享(う)け幸福です。必ず戴いた愛機と共に運命を共にする覚悟です。新聞紙上或(あるい)は公電に依り知りましたら喜んで迎へて下さい。

生を享けてより廿年、父母兄弟の恩に対し 何も出来なかった事が何よりの心残りです。本当に御苦労さんでした。然し特攻隊の名誉を以て恩に報ゆるの覚悟であり、之が鴻恩(こうおん) (*3)の万分の一かと信じております。報に接しても決して涙など見せないで下さい。立派に我が子は体当りしたと笑顔で皆に伝へて下さい。母校に何か贈りたいと思ひますが明日出発で出来ません。何か一つ頼みます。写真は部隊でとりました。送って下さる事と思ひます。此の間の面会が最後とは神ならで誰が知るらん (*4)。遺書とて何もありません。唯(ただ)父の子として日本帝国の特別攻撃隊員として莞爾として行く事を書いたのに過ぎません。準備等で心が落付かず文があちこちになりました。それから村長、大西、平石先生初め倉夫小父さん、村民一同によろしく御伝言下さい。

では之が最後と思ひますが、身体に注意して奮励下さい。私も元気で行きます。

   散るを知り散るに向う若桜
    身をば砕きて御国ぞ護らん


 (遺筆その五) 昭和二十年四月二十七日出撃前

 (付)〔第61振武隊長岡本勇少尉より沖山隊員の御尊父へ〕昭和二十年四月四日発

謹啓 春暖の候決戦の様相は愈々苛烈と相成り候。
今度御令息富士雄殿には身命を国難に代へんと決然自ら進んで任務を求め私の下に馳せ参ぜられ候。
今や決戦は本土そのものに迫り幾多先輩の示されたる如く全機特攻として始めて皇国の急を救ひ得べく、我隊の任極めて重大なるを痛感致し候。御両親様の御心境を御察し申上候へば、転(うた)た (*5)感無量なるもの有之(これあり)候へど、御令息様の悠久の大義に生きんの御心境を御察し下され度候。

   親思ふ心に勝る親心
    今日のおとずれ何ときくらむ

   七度も生きかへりなむ若桜
    たとへ南に散り果つるとも

何卒御長寿を御保ち下され度く乱筆乍(なが)ら御無礼御詫び申上ぐ
                                     敬白
                               隊長 岡本 勇少尉

   四月四日夕
  沖山●雄様 皆様へ (*6)

                〔注〕熊本県下益城郡隅庄郵便局気付
                       西部第一八四九八部隊
                             岡本少尉


【出典】1977(昭和52)年 原書房 寺井俊一編 「航空基地都城疾風特攻振武隊」

  • 最終更新:2016-04-14 10:16:48

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