【第六〇振武隊】田中 治

田中 治

昭和十七年東京陸軍航空学校卒、十九年熊谷陸軍飛行学校卒(少飛十三期)、二十年明野陸軍飛行部隊都城隊、二十年五月四日、第六〇振武隊として出撃散華


 遺 書

拝啓 前略御免下さい

小生突然命に依り特攻隊員を命ぜられ、此の小包到着時には散る事と思ひますが、一筆申置きます

想へば昭和十六年東航入校以来念願の志通り、進撃の日を一日千秋の思に待望致し居りました 其之時(そのとき)右に接し神州男児の本懐至到の事に御座います

御蔭(おかげ)を以って今日無事兄弟揃って御奉公致し世人の注目の所と察し、かねて御覚悟の事と思ひますが世人の後指(うしろゆび)を恐れ失礼乍(なが)ら御練言申上げます。

尚(なお)御願(おねがい)として無事任務遂行の節は世人の配慮尠(すくな)しと思へませんが、数多(あまた)戦死の家族を思ひ、弟一人の死を重大視されるが如きことなき様(よう)御願申上ます (*1)

次に在隊中、家に送り置き品の中、軍事秘密に至る書類有るを以って遺品として残す物の外(ほか)、焼去して下さい、申置く事は右迄にて次にトランクにて送る品中、ジャケツは遺品として御送り致します故、外に持出さない様に御願致します。

次に親類御一同様には業務多忙にて失礼致しますが、父上より宜敷(よろしく)御伝へ下さい 先は右御願迄に永(なが)の御不幸平に御許し下さい 治は先に失礼致しますが 靖国の社頭より皆様の御健康を御願申上ます 尚姉上にも宜敷く

   二十年四月二日書

                               治より

 父上様


【出典】1977(昭和52)年 寺井俊一 「航空基地 都城疾風特攻振武隊」

  • 最終更新:2016-05-25 13:36:46

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