【第五七振武隊】西田 久

西田 久

昭和十八年東京陸軍航空学校卒(教育隊第七中隊)、十九年熊谷陸軍飛行学校卒(少飛十四期)、以後第一教育区隊、第一練成飛行隊、明野教導飛行司団等転属、二十年五月二十五日、第五七振武隊として出撃散華


 (遺筆その一)

謹啓 春暖の候御両親様には益々御健勝にて 決戦の仕事に邁進して居られる事と思ひます 永らく御無音して本当に申訳(もうしわけ)ありませんでした 深く御詫び致します

早や敵は沖縄まで迫り 挙げて本土上陸を基図 (*1)して居る今日 此(こ)の難局を打解 (*2)して行くのは 醜敵米英を挙手せしめるのは我々のつとめです。国なくして国民なし 久は国の為日本民族のため 一機一艦米鬼千と刺違へる覚悟です

父上母上様御健在にして兄と共に一家を一国に捧ぐ久の気持わかって頂ける事と信じます 先日明野滞在中、まさ叔母様を訪ひ御話ししましたが無理して赤飯まで炊いて祝って戴きました 叔父様少し足を痛めた外(ほか) 皆御元気でした 幸夫君は応召されたとの事でした 暇な時に御礼状出して下さい

今日まで久は本当に真面目にやって来ました 陸士にも行けば入るだけにまでやりました しかし今行けば真の軍人として立つ時がなくなります 亦(また)日本男子として之(これ)が正当の心ではないかと信じます 此の決意 今完遂の第一歩をふみ出しました 完遂の日も遠くはないでせう それまで自重自愛 猛訓練に励み温なしい位とまで言はれましたが、やる秋こそ美事にやってみせます

御両親様 久は子としての道はつくして居ないかもしれませんが 忠孝の道は確固と弁(わき)まへて居るつもりです 御心配ばかり御掛けして申訳ありませんが 久の一生の願ひ 之が完遂を祈って下さい

十二分に御体に気をつけて強く明るく闘ふ事が大切です

久も最後まで頑張ります 蔭(かげ)乍(なが)ら御健勝を祈りつつ では亦暇を見て便りします   敬具

  御両親様                         久拝


 心のみ

   幾年を鍛へ錬へし若桜
    今来ぬ秋に花散らしめん


   散る桜残る桜も散る桜
    練る春いまは秋を目指して


   たらちねの国をうれふるさくらばな
    散りてぞ人に惜しまれにける


今日の休みを利用して 一人で海をわたり帰りました 四月十日撮影しました 此の服で毎日励んで居ります 食ふものに不自由はないので余り太り過ぎて居ります 何も御馳走しないで下さい 蔵様 近藤様 足立様にも少々面会したいと思ひます 宜敷く御願ひ致します     をはり


 (遺筆その二)

 忠即孝

御深恩を心謝す
一家を皇国に捧ぐ
亦(また)言ふ所なし
 昭和二十年吉日
御両親様   陸軍特攻隊員
           久拝

   幾年を鍛へし若桜
    今来ぬ秋に花散らしめん


 (遺筆その三)

前略 恐らく之(これ)が最後の便りとなる事と思ひます 別封にて写真を送りましたが皆世話になった方ばかりです 宜敷く御礼申上げて下さい

久は最後まで元気に明朗に純真にやって来ました その点はほめて下さい 後程前夜にとった写真送ります 実に朗(ほがらか)なので写真にも表れて居ると思ひます

今日九州に来ました やはり南で蝉が鳴いて居ります 若葉の緑が栄え何処(どこ)に戦があるのかと思はれる位です 考へれば 久の体躯は後二十四時間内に消えるかも知れません

しかし 父様、母様 必ず久の戦果を見て下さい 永久に生きる 久の精神もわかって下さる事と信じます 久の体の大和魂の爆発の秋より必ず戦機一変する事と確信して居ります

父様も母様も共に勝つ日まで強く頑張って下さい その時には久しぶりにて久も面会に参ります

隣組の方にはハガキ一枚出した丈(だけ)ですが御両親様よりも宜敷く御願ひ致します 猶(なお)久の御世話になった方々にもよろしく

思ひ出のまゝにて文がまとまらず御許し下さい

御両親様は 久をこれまで育てゝ呉(く)れた其(そ)の強い親と思ひ 明らかに云ひます

久は明(あくる)二十五日八時頃突入 ヤンキ二千と心中します 久の心にあるはエセックス・インデペンデンスあるのみです 必沈、轟沈あるのみです

御両親様決して泣かずによくやったとほめて下さい 親としての気持 わかり過ぎる程知って居ります 何卒御許し下さい

呉々(くれぐれ)も御体に気をつけて永く御奉公して下さい 久は初めから居なかったものと思って下さい 御気に止めなくとも久は一人で立派にやれます

では呉々も御体に気をつけて 久も蔭ながら御健闘を御祈り致します 人生十八年 二年の長生二十年 永い間色々と御心配許(ばか)り御かけし申訳けありませんでした しかし今度は喜んで頂ける事と思ひます 久が立派にやったら「国旗」を立てて下さいね 御願ひします

まだ用事がありますので是(これ)で止めます 皆様によろしく 有難う御座居ました
                                    さやうなら 久拝

  御両親様
   二十四日夕しるす


 二伸

近藤様に手紙出して居りませんので宜敷く申上げて下さい
五分の暇をさき書きました 乱筆他方の方に見せないで下さい



【出典】1977(昭和52)年 原書房 寺井俊一 「航空基地 都城疾風特攻振武隊」

  • 最終更新:2016-05-25 14:09:53

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