【第九建武隊】中西齋季
中西齋季
慶応義塾大学
神風特別攻撃隊神雷部隊第九建武隊、昭和二十年四月二十九日南西諸島にて戦死、二十七歳
陣中日記
三月×日 硫黄島陥落。日本兵玉と散る。噫(ああ)! 散る桜、残る桜も散る桜。
三月×日 東京の兄の家、空襲で焼失。生死不明。
三月×日 吉田さん(註・恋人)より久しぶりに便りあり。兄の一家無事なるを知りてホッと安堵。学生時代の楽しい写真同封しあり、昔をしのんでしばし懐しむ。
三月×日 死は決して難くはない。たヾ死までの過程をどうして過すかはむづかしい。これは実に精神力の強弱で、ま白くもなれば汚れもする。死まで汚れないままでありたい。
四月×日 吉田さんより結婚の申込をうく。彼女がわれを愛しくれる (*1)以上われも亦(また)彼女を愛す。しかれども、わが未来はあまりに短し。つヽしんでその申出を断るより他になし。
四月×日 久太郎兄ついに応召。齢(よわい)五十なり。国のために齢は問はずといへども、兄征ける後の家を想ふ。嫂(ねえ)さん、佐和子、由紀子頑張って下さいとひそかに祈る。
四月×日 人間死ぬ死ぬと口に出せるうちはまだ本当に死といふ観念が迫つて来ない。いよいよ明日突込むといふ日になつて、はじめて死ぬのかといふ気になる。いやそれでもまだ何か他人事のやうな気がしてゐるが………しかし明日は突入する。さうすればたしかに死ぬ。
【出典】1953(昭和28)年 白鷗遺族会編 「雲ながるる果てに-戦没飛行予備学生の手記-」
- 最終更新:2015-12-06 03:57:06