【神風特別攻撃隊第二護皇白鷺隊】野元 純

「平常心のままに」


少尉候補生 野元 純
第二護皇白鷺隊 東京商大出身 二四歳


 急命により〇〇に進出し、あすの出撃を聴き感新たなり。俺が来たため〇候補生が攻撃の「メンバー」からのぞかれた。気の毒にたえず。悲喜交々とはこのことか。人間いつかは死すものなり。死期を選ぶに運命以上のものあり。あすこそは腕に自信あり。力のかぎり敵艦に突込み護国の大任を完うせん。中西兄ともついに別れるときが来た。会者定離更に未練なし。


 二月末特攻隊編成されて以来、訓練に訓練をかさね、ようやく出撃の機を得ました。出撃にあたり「死を急ぐな」等のことばをよく受けましたが、すべては天命です。


 私の信ずる道にむかって突進します。この十余年の永いあいだ、本当に種々御世話になりました。心から御礼申上げます。一五年間の学校生活がいまこそ実を結びます。皇国のありがたさをつくづくと身に感じます。搭乗員である私のこの気持が本当に判っていただけると信じて、あすの成功を期しています。いささか急でしたので、親戚恩師親友すべてに出状できませんので、おりあり次第つぎの各位に出状御挨拶をお願いいたします。



 父様
 母坂


 時間がありませんので代筆にて失礼します。


 なにも申し上げることはありませんが、最後の最後まで選抜されて元気で出撃です。僚機はすでに出発しました。これは飛行機の上で書いています。だれに恨まれることもなければ特に喜ばれることもありません。平常となにも変ることなく、平常のままで落着いて突込む覚悟です。永いあいだ本当に種々御世話になりました。なんといって御礼申し上げてよいやら分りません。海山よりも高い御恩は突込むことによりかならず御報いできると信じます。


 広三、茂生の勉強をくれぐれもお願いいたします。人生に勉強を抜いたらなにも残りませんことは確かです。ぼんやりする時間をできるだけ少くするよう教育してください。姉様はなにも心配事はありませんね。本当に安心して行けます。すべては父様母様のおかげです。私も突込むことにより幾分でも祖先に報いられれば満足です。ではさようなら。



【出典】1967(昭和42)年 河出書房 猪口力平/中島正著 「太平洋戦記 神風特別攻撃隊」






  • 最終更新:2016-03-14 08:11:56

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