【特攻隊とマスコミ】読売報知新聞|昭和20年6月12日掲載

出典:1977(昭和52)年 原書房 寺井俊一編 「航空基地 都城疾風特攻振武隊」 都城特攻隊取材録


振武隊出撃の日

 振武隊出撃の前夜基地ではあわただしい中に部隊長心尽しのささやかな壮行宴が催された。隊員はム部隊長の勧める盃を重ねるうちに歌ふものは唄い、呑むものは呑み、最後の名残りは尽きなかった。

 明くれば八日、暁闇(ぎょうあん) (*1)の飛行場にはわが整備員が真心を傾け整備した白銀色の新鋭機がズラリ列線に逞しい鵬翼(ほうよく) (*2)を張り始動のエンジンを響かせてゐた。指揮所に集合する振武隊員はみな一様に濃紺色の揃ひのマフラーを巻き真新らしい救命具に一杯人形を吊り下げてゐた。ム部隊長は指揮所前に起(た)って微笑しながらこの無邪気な隊員の凛々しい晴れ姿に見入ってゐた。やがて時は来た。「成功を祈る。」部隊長の訓示は簡単だった。

 振武隊の隊長の右手がサッと上った。一機また一機緑の若草をけって機は静かに滑走路を進み出た。旗、旗、見送る旗の波が大きく切れた。その旗の中を機は轟々砂塵を巻いて次々に離陸する。大きく基地上空を一旋回、見事な編隊を組むと全機寄り添ふやうに南の方角に飛び去った。


【第五十九振武隊寄せ書】
第59振武隊寄せ書.jpeg

  • 最終更新:2018-08-14 18:15:25

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