【特攻隊とマスコミ】朝日新聞|昭和20年6月19日掲載

出典:1977(昭和52)年 原書房 寺井俊一編 「航空基地 都城疾風特攻振武隊」 都城特攻隊取材録


神鷲愛情に溢れる最後の手紙

 ただ一すじに必中のみを念じつつ敵艦めがけて突き込む神鷲の心境、しかも出撃直前まで否、恐らく体当りするその瞬間まで平常と同じやうに、にっこり笑ってゐるであらう特攻隊員のあの心境──何人がその謎を解き得たであらうか、出撃直前私は隊長伊東少尉がただ一人の弟にあたへる最後の手紙をよんだ。

 私は泣いた。遂に神鷲の心境に近づくことはできないにしても、それへの道があまりにもはっきりとそこに示されてゐたのだ。「新聞記者殿、これをお願ひします。」出撃を明日にひかへた陸軍特別攻撃隊振武隊の宿舎で伊東少尉は私に一通の手紙を託した。それは、同少尉がふるさとの弟に送る最後の手紙であった。特に隊長に乞うてその手紙をよましていただく中に私は自ら涙の頬を伝ふのを禁じ得なかった。

 「弟へ 正しく強くしかも真実を失はぬ人間であれ 偉い人間といふのは決して立身出世した人間ではないのだ 自分の思った事信じた事を正直に素直に実行できる人間がほんたうに偉いんだよ 周囲にどんな虚偽があらうとも決して心にないことをするものではない 周囲に負ける男はみじめで卑怯な人間だ 弟よ 軍人にならうともまたその他の道に進まうとも出世を思ふ前に今兄の述べた事をしっかり考へるんだよ 弟よ 田舎に育ったいい性格を絶対に都会化するな 小才(こさい) (*1)の利く人間に負けるな 肚(はら)で勝つんだよ それが真の勝利だよ」

 何といふ大らかな愛情であらう。この隊長あらばこそ弱冠二十前後の隊員たちが莞爾 (*2)として必死必中の体当りを敢行し得るのだ。私はもう一度繰返した。「正しく強くしかも真実を失はぬ人間であれ」

【第五十七振武隊|伊東喜得少尉】
第57振武隊伊東少尉.jpeg
 

  • 最終更新:2018-08-14 16:09:55

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード