【特攻隊とマスコミ】朝日新聞|昭和20年6月14日掲載

出典:1977(昭和52)年 原書房 寺井俊一編 「航空基地 都城疾風特攻振武隊」 都城特攻隊取材録


殺気漲る特攻隊の基地
 生のキャベツが何よりの御馳走

 義烈空挺隊の敵中強行着陸と前後して敵艦船に突入、多大の戦果を挙げた特攻隊を出した某基地を訪ねた。空襲警報下の或る日、久し振りに晴れ上った好天のせいか基地全体がまりの様に弾みきってゐた。緑深い地形物を巧みに活かして設けられた部隊本部、四通八達する飛行場への間道、グラマン、B-29いかにしぶとく食ひ下らうともまず発見困難、しかも完璧の耐弾性でみるからに心強い。

 「さあ征くぞ。」数日来の悪天候に出撃できなかった荒鷲たちは腕を撫して搭乗、地軸を揺がす轟音を残して続々飛び立った。この基地で味わった昼食は部隊長から下は一等兵に至るまで麦飯と千切り大根だった。内地とはいへ野戦部隊、このごろでは乾燥野菜ばかりつづくときがあるといひ「二、三日前にキャベツを貰ったが生だったので実に美味しかった。」これはある本部将校の雑談の一言だった。(中略)

不思議と関東出身の多い基地だけに復讐心も異様なまでに強烈で意気まさに衝天、これこそ撃敵一本に徹しこれのみが生活絶対の指針でありすべての時間を支配するからだ。田圃(たんぼ)を距(へだ)てた数町向ふは普通の人家なのにここだけはまるで違ふ別世界、限りなき闘魂に沸(たぎ)り立ってゐる。

 現在ある最新鋭機が皆の手に渡ったら……これは無邪気な童心に似せるならば、余りに尊く余りに耳に痛い部隊長の希望だった。この朝でた編隊から帰還の無電が入る。「悠々とやっとるじゃないか。」部隊長も満足さうに飛行場へ向ふ。待つこと暫し、はるか彼方連山の稜線をかすめて続々に帰還してくる友軍機、一機また一機つづいてまた一機、相次いで見事な編隊を解きながら翼を振って着陸姿勢に移る。

 「帰りも脚は出るか、故障はなかったかと心配だが、出るときもなかなか気苦労ですよ。特攻隊を見送るときでも帽子を振りながら自然に自分の背を丸めて草をすかして車輪がうまく地を離れるかどうかを見る。スッと機が浮き上った刹那、よかったと気づいて思はずヤケにふる帽ですよ。」これが己が身体の一部にも等しい貴重な機を案ずる飛行場某隊長の述懐である。

 飛行機から生れた男と評され、曾(かつ)ては帝都に於けるB-29邀撃(ようげき) (*1)で体当りを敢行、感状上聞(じょうぶん) (*2)の栄に輝く粟村尊中尉や武功章の坂本勇曹長等を出した精鋭中の最精鋭隊あるひは敵艦上機の関東大挙来襲でグラマン撃墜十八、撃破六の、胆のすく決戦果を挙げた古強者などを擁する部隊だけに優秀そのもの。

 「どうもかうもけふみたいな悪い日はないですよ。」無事帰った筈(はず)だがと訝(いぶか)り乍(なが)らきけば相手にする好餌がなく突込むべき艦船もなかったのだといふ。 「特攻を完全に護り通し二機不時着のほかは全機無事帰還しました。列島線から沖縄にかけて天候は上々、特攻全機の成功疑ひありません。」戦闘はできなかったが特攻掩護の重き任務を完全に果した。これがこの日の帰還報告であり「突込んで徒(いたず)らに死に逸(それ)るな、機会は未(ま)だ未だある。」と部下を諭す某隊長の語気はきびしかった。

  • 最終更新:2018-08-14 18:44:03

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